スペシャルティカフェのメニューには、決まって「100%アラビカ」という文句が誇らしげに添えられています。ところが、いざエスプレッソの本場イタリアのバーでは、今も多くのブレンドにロブスタが入っています。品質が低いと言われるその豆を、コーヒーに最もうるさい国がなぜ貫くのでしょうか。
ロブスタ、名前からして「頑丈な」豆
私たちが飲むコーヒーは、実質的に二つの種(しゅ)の争いです。アラビカ(Coffea arabica)とロブスタ(Coffea canephora)。ロブスタは学名がカネフォラですが、「頑丈な(robust)」という意味のあだ名があまりに有名になり、事実上それが名前になってしまいました。サハラ以南の中西部アフリカが原産で、現在世界のコーヒー生産量の40〜45%を占めます。

名前に違わぬ豆です。標高1,000m以上の涼しい高地が必要なアラビカと違い、ロブスタは標高200〜800mの低地の暑い気候でもよく育ちます。病虫害への抵抗力が強く農薬も少なくて済み、収穫量も多いです。その秘訣の一つがまさにカフェインです。カフェインは植物にとって天然の殺虫剤の役割を果たしますが、ロブスタのカフェイン含有量は約2.2〜2.7%でアラビカ(1.2〜1.5%)のほぼ2倍です。
アラビカ vs ロブスタ、数字で見る
| アラビカ | ロブスタ | |
|---|---|---|
| 学名 | Coffea arabica | Coffea canephora |
| カフェイン | 約1.2〜1.5% | 約2.2〜2.7% |
| 糖分 | 6〜9% | 3〜7% |
| 栽培標高 | 高地(900m以上) | 低地(200〜800m) |
| 香味 | 花・果実・酸味、複合的 | 重厚なボディ、土・ウッディ・苦味 |
| 世界生産比率 | 約55〜60% | 約40〜45% |
| 主産地 | ブラジル・エチオピア・コロンビア | ベトナム・ブラジル(コニロン)・インド・ウガンダ |
遺伝的にも興味深い関係です。アラビカは実は、はるか昔にロブスタの祖先と別の種(Coffea eugenioides)が自然交配して生まれた、子に当たる種です。染色体が2倍(44本)になることで香り化合物を作る遺伝子も増え、その結果アラビカがより複合的な香味を持つようになったという説明が一般的です。逆にロブスタは単純な遺伝構造の代わりに生存力を選びました。
では、なぜイタリアはロブスタを入れるのか
イタリアのエスプレッソの出発点は単一の豆ではなくブレンド(miscela)です。今もイタリアでシングルオリジンを飲むことはまれで、ブラジルのナチュラルのアラビカをベースに複数の産地を混ぜるのが基本です。そして特に南部ではロブスタを20〜40%混ぜるブレンドがむしろ標準に近いです。理由は明確です。
① 厚く長持ちするクレマ
ロブスタはエスプレッソ表面の黄金色の泡、クレマを厚く密に作ってくれます。シロップのように口にまとわりつく質感は、ロブスタブレンドのトレードマークです。
② 重厚なボディとパンチ
1ユーロの一杯をバーに立って二、三口で流し込む文化では、短く強い印象が美徳です。高いカフェインは「一発」を保証します。
③ 砂糖・ミルクとの調和
イタリアのエスプレッソは砂糖を入れて飲む場合が多いです。ロブスタの苦味と重厚さは、砂糖、そしてカプチーノのミルクを突き抜けて生き残ります。
④ 価格の現実
ロブスタは栽培コストが低く、伝統的により安価でした。戦後物資が不足した時代に定着したブレンディングの伝統が、「1ユーロ・エスプレッソ」の経済学を今まで支えています。
スペシャルティコーヒーが明るいロースティングと酸味で産地の個性を表現しようとするなら、イタリアは正反対の方向を見ます。暗いロースティング、慎重なブレンディング、低い酸味で毎日飲んでも負担のない「心地よい一杯」を追求するのです。コーヒーが特別であることを望むのではなく、昨日と同じであることを望む文化です。

北部と南部、ロブスタの緯度
イタリアの中でもロブスタに対する態度は緯度に沿って分かれます。料理がそうであるように、コーヒーも地域色が際立っています。
北部 — アラビカの領土
トリエステのilly(イリー)は100%アラビカのブレンドを貫く代表格であり、トリノのラバッツァのような北部のロースターはアメリカ式のシティロストに近い中煎りを使います。優雅でバランスの取れた、比較的滑らかなエスプレッソです。
南部 — ナポリ、ロブスタの首都
南へ下るほどロースティングは暗くなり、ロブスタの比率は上がります。その頂点がナポリです。ナポリのエスプレッソの濃度(TDS)を実測した資料によれば、平均12%台で、一般的なエスプレッソ(8〜12%)の上限を突き抜ける水準です。カップは小さく、黒く、シロップのように濃いです。

ナポリのロースターの製品ラインナップを見ると、ここではロブスタの位置づけが違います。
ナポリのカフェ・ボルボーネ(Caffè Borbone)はロブスタの比率が高い「ミシェラ・ネラ」、そしてそもそも100%ロブスタだけで作った「ミシェラ・ロッサ」を看板に掲げます。キンボ(Kimbo)、パッサラクア(Passalacqua)といったナポリのブランドも同様に、ダークロースト+ロブスタブレンドがデフォルトです。
北部の視線では「粗い」コーヒーですが、ナポリの人々にとっては、それがすなわちコーヒーの定義です。
「安物の豆」から再評価の時代へ
長らくロブスタは、インスタントコーヒーの原料、「焦げたゴムの味」という汚名とともに生きてきました。実際、大量生産された低級ロブスタはそんな味がすることもあります。しかし最近の流れは違います。

第一に、ファインロブスタ(Fine Robusta)という等級が生まれました。よく熟したチェリーだけを選んで丹念に加工したロブスタは、土臭さの代わりにダークチョコレート、ナッツ、モルトのような香味を出します。インドのウォッシュドロブスタ「カピ・ロイヤル(Kaapi Royale)」は早くからイタリアの高級ブレンドに入っていた材料であり、ベトナムやウガンダからもスペシャルティ級のロブスタが出ています。
第二に、気候変動です。アラビカは気温に敏感で病虫害に弱く、栽培適地が減りつつあります。暑さと病害に強いロブスタはコーヒー産業の保険になりつつあり、アラビカとロブスタを交配した耐病性品種(カティモルなど)の研究もロブスタの遺伝子に頼っています。かつて「代替品」だった豆が、未来の主役候補として取り沙汰されているわけです。
家でロブスタを味わってみたいなら
モカポットが最も良い入口です。 イタリア家庭の抽出道具であるモカポットは、ロブスタブレンドの重厚さとよく合います。次の順序をおすすめします。
① ロブスタ20〜30%のブレンドから — ラバッツァのクレマ・エ・グスト、キンボなど、イタリアのスーパーのブレンドが代表的です。クレマとボディの違いをまず感じてみてください。
② 慣れてきたらナポリスタイルのダークロースト(ボルボーネ・ネラなど)へ — 砂糖を一さじと一緒に、ナポリ流のそのままに。
③ 好奇心が高まったら100%ファインロブスタに挑戦 — 「ロブスタ=低級」という先入観が崩れる地点です。
「100%アラビカ」は品質の良いコーヒーという文句のように使われますが、それがコーヒーのすべてではありません。ナポリのバーで砂糖をかき混ぜて二口で空にする、あの黒く濃い一杯には、アラビカでは与えられない種類の満足があります。ロブスタは劣った豆ではなく、別の目的を持った豆です。そしてイタリアの人々は、その目的を百年以上にわたって正確に知り、使ってきたのです。
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