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ニッカウヰスキーの物語: 竹鶴、余市、宮城峡

Benjamin J 2026年6月5日 6分で読めます

北海道旅行の準備をしていて、ニッカウヰスキーをあらためて見つめ直すことになりました。札幌から西へ1時間あまり、海と山の間にある小さな町・余市には、日本ウイスキーの一翼を築いた蒸溜所があります。この記事は、竹鶴政孝がスコットランドから持ち帰ったノート、余市の石炭の火、そして宮城峡が加わった理由をたどっていきます。

札幌から余市へ向かう北海道の海岸旅行のイラスト
札幌から西の海岸へ向かうと、余市という小さなウイスキーの町が旅の動線の上に現れます。

余市に到着すると、まず風景が説明の代わりをしてくれます。赤い屋根の石造りの建物、冷たい海風、低く立ち込めた湿った空気、そして煙突の存在感。ここのウイスキーは、単に日本で造られたスコッチの模倣ではなく、スコットランドで学んだ原則を日本の一つの風景の中に植え直した結果に近いのです。

竹鶴政孝とニッカウヰスキーの物語

竹鶴政孝、日本ウイスキーの父竹鶴政孝 · リタと竹鶴ノート

竹鶴政孝は、広島の清酒の造り酒屋の家に生まれました。酒を造る家の息子でしたが、彼が心を奪われたのは西洋の蒸溜酒でした。1918年、彼はウイスキーをきちんと学ぶためにスコットランドへ旅立ち、大学で化学を学びながら蒸溜所の現場で製造の過程を身につけました。

彼が残した記録は、後に竹鶴ノートと呼ばれました。蒸溜器の構造、製麦、発酵と蒸溜、熟成だけでなく、蒸溜所の運営に関する細部までびっしりと収められたノートでした。ニッカの出発点は1934年に余市に建てた蒸溜所でしたが、それより前に、一人の青年がスコットランドで書き留めてきたノートがありました。

そこで出会ったリタもまた、ニッカの物語に欠かせません。スコットランド人のリタは竹鶴の伴侶となって日本へ渡り、見知らぬ土地でも彼の夢を支えました。NHKのドラママッサンが描いたのも、まさにこの二人の実話です。

日本人に
本物のウイスキーを飲ませたい。

なぜほかでもない余市だったのかスコットランドに似た条件を求めて

竹鶴はウイスキーに合う土地を求めて日本各地を見て回りました。市場に近い場所、物流に便利な場所もありましたが、彼が最終的に選んだのは北海道の余市でした。ロマンチックな選択のように見えますが、理由はかなり実質的なものでした。涼しい気候、澄んだ水、湿潤な空気、海風、そして当時の原料と燃料を得られる条件が噛み合ったからです。

余市がウイスキーに合っていた理由
涼しい気候澄んだ水湿った空気冷たい海風大麦とピート石炭燃料

余市を前にしてスコットランドを思い浮かべるというのは、単なる風景の比喩だけではありません。ウイスキーは蒸溜器の中だけで造られる酒ではなく、水と空気、貯蔵庫の湿度と温度、そして時間がともに醸す酒です。余市は、その条件を日本の中で見つけようとした竹鶴の答えでした。

余市の味を作った三つのもの環境、石炭の火、そして蒸溜器

ウイスキーが完成するまでには、大麦を発芽させ、糖化し、発酵し、蒸溜し、オーク樽で熟成させる過程を経ます。しかし、この記事で覚えておくべきは、すべての工程の細部ではなく、余市を余市らしくした違いです。

余市を読み解く三つのキーワード
  1. 海岸の冷涼な環境: 冷たく湿った空気が熟成をゆっくりと導きます。
  2. 石炭直火蒸溜: 強い熱と熟練した火力の調整が、重厚で香ばしい印象を作ります。
  3. ストレートヘッドのポットスチル: 下向きのラインアームとともに、重みのある成分をより多く残します。
余市蒸溜所の銅製ポットスチル

石炭の火と銅の蒸溜器今日ではより稀な方式となったこだわり

余市の核心は石炭直火蒸溜です。今日では多くの蒸溜所が効率的なスチーム加熱を使いますが、余市は創業期の方式を受け継ぎ、石炭の火で蒸溜器の底を直接熱します。底の温度は1000度以上まで上がり、人は石炭の量と火の強さを絶えず調整しなければなりません。

この方式は手間がかかります。効率だけを見れば、現代的な方式のほうがはるかに楽です。しかし、強い直火は原酒に重厚な質感と香ばしい印象を残します。余市特有の力のあるモルトのキャラクターは、まさにこの不便な方式から生まれます。

還流を減らすと何が変わるのか?
蒸溜の過程で重い蒸気が再び釜に落ち、軽い成分だけが越えていく流れを還流と呼びます。余市のストレートヘッドと下向きのラインアームは、この還流を相対的に減らし、より重く複雑な成分が越えていくようにします。だから余市のモルトは、繊細というより重厚で、なめらかというより力があります。

銅製ポットスチルを使う理由も重要です。銅は、発酵の過程で生じる荒い硫黄成分を減らす役割を果たします。ここに石炭直火、まっすぐ伸びた首、下を向いたラインアームが重なることで、余市ならではの重みが作られます。

ニッカ余市の蒸溜器の構造と雰囲気

宮城峡が加わってニッカが完成した余市とは違う原酒が必要だった

ニッカにはもう一つの重要な蒸溜所があります。1969年、仙台の森と渓谷の間に建てた宮城峡です。竹鶴が二つ目の蒸溜所を造った理由は、生産量を増やすためだけではありませんでした。余市とは違う性格のモルトを得て、ブレンディングの幅を広げるためでした。

余市と宮城峡の蒸溜所の対比を表現したウイスキーのイラスト
余市が火と海の力なら、宮城峡は森と水の香りに近いのです。

余市 余市

  • 石炭直火蒸溜
  • 直線的な首 · 下向きのラインアーム
  • 還流が少ない
  • 重厚、スモーキー、香ばしい
  • ハイランド風の力

宮城峡 宮城峡

  • スチーム蒸溜
  • バルジ型 · 上向きのラインアーム
  • 還流が多い
  • 花の香り、果実香、まろやかさ
  • ローランド風の繊細さ
余市の蒸溜器の構造の画像宮城峡の蒸溜器の構造の画像
項目余市宮城峡
立地北海道の海岸、冷たく湿った空気仙台の西、森と二つの川がある渓谷
加熱方式石炭直火約130度のスチーム蒸溜
蒸溜器の特徴ストレートヘッド、下向きのラインアームバルジ型、上向きのラインアーム
味の印象重厚でスモーキー、香ばしい華やかで果実香があり、まろやか
ブレンディングの役割中心を支える力バランスを広げる繊細さ

スーパーニッカ、竹鶴、ブラックニッカのようなブレンデッドウイスキーが、一方だけに偏らない理由はここにあります。余市が骨格を立て、宮城峡が彩りを広げます。互いに異なる二つの蒸溜所があってこそ、ニッカらしいバランスが完成します。

一口で読み解くテイスティングのポイント蒸溜所を訪れる前に覚えておくこと

余市蒸溜所を訪れるなら、見学とテイスティングの構成は時期によって変わることがあるので、公式の案内を先に確認するのがよいでしょう。ただ、どの一杯を飲むにしても、見る順序は似ています。色を見て、香りを嗅ぎ、一口を口の中でゆっくり転がしてみてください。

余市系なら、まずスモーキーさ、焼いた穀物のような香り、重厚な質感を探してみてください。宮城峡系なら、花の香り、果実香、まろやかで澄んだ余韻を思い浮かべるとよいでしょう。同じニッカの中でも、二つの一杯はかなり違う方向を見ています。

ウイスキーをよく知らなくても大丈夫です。むしろ初めてなら、二つの蒸溜所の違いがより鮮明に感じられるかもしれません。余市は力で語り、宮城峡は香りで説明します。

おわりに: 一杯に残る物語ノート一冊から二つの蒸溜所まで

ニッカウヰスキーの一杯には、いくつもの時間が重なっています。スコットランドで書き留めてきた竹鶴のノート、その夢を信じたリタ、北海道・余市の石炭の火、そして仙台の森の中・宮城峡の澄んだ水。琥珀色の一杯が、単なる酒を超えて物語になる理由です。

次にニッカを飲むなら、ボトルの名前だけを見るのではなく、その中にどの蒸溜所の彩りが隠れているのかを思い浮かべてみてほしいのです。重厚な火の味なのか、森の中の渓谷のまろやかな香りなのか。一杯が、もう少しゆっくり、もう少し深く読み解かれるかもしれません。

参考にした資料公式資料を中心に

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